きょうも、好きなモンを書く。
ジャン・パンルヴェ
ジャン・ヴィゴ
ポール・ヴァレリー
当時の潜水スタイル。魅力的だ。
海の生き物のを科学と芸術両面で撮った。

これも科学フィルム。人間がシュッと小さくなって、草むらで
生物の観察をする。

色彩もシック
顔がきれい。照明も凝っている。
クレイ作家Rene Bertrandの三人のお嬢さん。せっせと
粘土で人形を作っている。 |
●JEAN PAINLEVEのフィルム
急な予定というのがなくなったので、とりあえず締め切りの仕事を終えて、机の上で御開帳日が来るのを待ちわびていたDVD-Rにようやく手をだした。いただいていたのはもう何ヶ月も前のことなのだけど、このフランスの海洋ドキュメント映画監督ジャン・パンルヴェ(お父さんは著名な数学者で首相。医学、動物学を学んだあと映画監督に。俳優、プロデューサー。200本もの自然ドキュメンタリーフィルムを制作。どれも科学と芸術の総合エンターテイメントとなっている(とわたしは思うけど、とってもコア)。コアながらも誰もが楽しめるものになっていると思う。)のフィルムはワサワサしている時にどうしても見たくなかったので、落ち着くまでとっておいたのだった。
去年一度このフィルムの事は書いたね。1930年頃から70年代くらいまでの海洋ドキュメントフィルムなんだけど、サイエンスというよりはアートと言った方がよく、多分関心のある人というのもその視点にあると思われる。パンルヴェ自身、どのような観点でタツノオトシゴの出産やタコの性生活やウニを撮影していたのだろうか・・・?しかも踊るようだったり、極端なズームだったり、顕微鏡内のものだったり・・・。わたしはyoutubeでこれらを断片的に見ていて、なんというか耽美的というのか肌にまとわりつくいやらしさというのか、とにかく磯辺のもの海辺のものも好きなのでツボだったのでした。
で、そのフィルムに数年前、ヨ・ラ・テンゴが音をつけていて、日本でもライブをしたというのを聞いて、ヒックリ返りそうになった。すべて後追いで「わたしって駄目ね〜」と思っていたら大阪の松沢さんがヨラテンゴのサントラを送ってくれたのだった!本当によかったわ〜。で、とても盛り上がりまして(一部で)以後iTunesに入れて愛聴しておりました。でもって、その松沢氏が今度はパンルヴェのDVDを手にいれ、わたしにも送ってくれたのでした!この作品について話して盛り上がっているのは我々だけなので、日記でビッシリ書いても「どうよ?」な感じですが、きっとわたしの日記を読んでくれている人の中には興味ある人が数人はいるだろう!と信じております。現にわたしにパンルヴェを教えてくれた人がいたわけで、感謝してますわーSくん。
というわけで、ここ数日はこのコアな映像を見ながらドップリと水に浸かって・・いや、夢見ごこちに浸っておりますですよ。
松沢氏はミュージシャンなんで、お礼に宣伝。
『服部緑地RainbowHill2009』
10月11日 日曜日 昼の12時開場/12時同時開演(19時終了)
前売り¥3500/当日¥4000
服部緑地野外音楽堂(http://www.rainbowhill.jp)
出演(あいうえお順)・OBANDOS
・サキタハヂメ バンド
・スチョリ
・曽我部恵一ランデブーバンド ・パスカルズ
・ははの気まぐれ
・ハンバートハンバート
・ふちがみとふなと
・ムー
・夕凪
松沢氏はどれに出るんでしょう・・・・普段はソニックケトルです。パスカルズのラッパ吹き氏に工房で会ったので「服部緑地行くんでしょ?」と言ったら「何それ?」と言うので拍子抜けした。「ああ、大阪ね」とそのあと思い出していた。東京人には馴染みがない場所なれど、中津川フォークジャンボリーのような感じなんでしょうか。(中津川にも行ったことないけど)
●クレイアニメーション『青ひげ』
と、松沢氏に感謝しつつ、お茶の用意も万全に整えてディスク1を見ます(3枚になっていただいた)これは残念ながら破損していたようでMacに読み込めず。残念。でも贅沢は言わない。
ディスク2へ。タコ。音もなくただただウニョウニョと動くタコ。吸盤のアップだとか目だとか・・・さらには髑髏に這わせたり・・・・穴に入るとかいろいろ。なんなんでしょうか・・・。パンルヴェの視点はサイエンスじゃない!でも、わたしはそれでいいんですけどね。ほかにもウニの触手のアップや、ゆったりとした動きを延々映す。これらのウネウネした生物の形態、動作に異常なほどに美しさを感じているのだ、ヤツは。そして、オオ、コレは!!と思ったのは、海洋ものばかりと思っていたら、クレイアニメーションが1本入っていたのでした。
それは『BLUEBEARD/青ひげ』でした。これはプロデュースをしているのでした。パンルヴェはこうもりもお好きで、そのドキュメンタリーには昔のサイレント映画(と思う)の「ドラキュラ伯爵」の異様な場面が使われてます。これは何なのかな。雰囲気としては「カリガリ博士」のようなので、ドイツのものではないか?と想像。ドラキュラに興味のあるような人は総じて青ひげも好きだ。「青ひげ」が好きな人は「ジル・ド・レ」も興味があるだろうし、行き着くところは澁澤になってしまうような気がする。わたしは澁澤というよりは、シュールやダダの方に行くのですが、それでも、好きは好きですよねぇ、このあたりのハッキリ言って病的なもんは。(この病的なもんが犯罪に繋がるのが一番悲しい。「この頽廃」「この狂気」と、笑って楽しめるようになってもらいたいもんだ。)
クレイ(粘土)アニメーションはわたし自身も制作しているし大好きです。このパンルヴェ制作のものは出てくるお姫様の顔が信じられないほど大人っぽくて美しい!これにはビックリしてしまった。たいていのクリアニメはかわいらしくデフォルメされていて、そこがどうものめり込めないものもなきにしもあらずだった。そういった意味で、ヤン・シュヴァンクマイエルやクエイ兄弟の人形を使ったアニメーションの方が、わたしの好きな「頽廃と狂気」にピッタリしているのだ。表情の無い人形の恐ろしさが良いのだ。クレイアニメーションは手間があまりにもかかるので、なかなか顔の表情をつきつめて表現するのは難しいと思う。これは顔の好みというのもあるわけで、あくまでもわたしの好みの問題であるのだけど、怖いくらい美しい顔の粘土人形なんてのは今まで遭遇したことがなかった。だからこの「青ひげ」にLOVEなのだ。作りは子ども用にできているのだけど、このお姫様の顔によって、制作者が単に子ども向けと考えてないことがわかる。しかし、驚くべきことに、このアニメに出てくる何百というアイテムは人形の制作をした制作者の方の3人のかわいらしい(全員小学生くらいに見える)お嬢さんらしいのだ。多分、重要な人物などはお父さんが作り、たくさんの首のないドレス姿の女などを一生懸命作ったのだろう。このセンス!恐るべし。
フランスのこのセンスが好きだ。あまり好きではないが、このきれいなようで薄汚いようなセンスはコクトーに通じるところがある。ジャン・マレー(これまた好きじゃないです。母が好きだったのであまり悪口は言わない)が出た「美女と野獣」「オルフェ」のような雰囲気かもしれない。
(きれいなようで薄汚い、というのは、何を連想しているかというと、昔アチラの婦人は、高価なシルクの下着を着てはいたけれど、滅多に洗濯してなかった、とか、部屋はきれいにしているけれど、汚物は窓から街路に捨てていたとか、そうゆうことが頭ん中にこびりついているのです)
こうしてわたしは、パンルヴェは、最初は単に海洋生物フェチのボンボンという捉え方だったのですが、知るほどにわたしのツボとなっていったのです。
●パンルヴェの謎を解く
鳥肌もんで続けてディスク3へ。
これはパンルヴェのインタビュー。生い立ちから科学ドキュメンタリーのあらゆることについて語っている。問題点、困難な点、どうやって撮ったか、何がおもしろいか、何を撮ろうとしたか等々。英語字幕なので、かいつまんでしかわからなかったけれど、わたしが抱いていた謎はだいたい解かれたのでした。彼の撮影のやり方。もしかしたらすべて水槽で撮影してるんじゃないの?お金持ちだからきっと巨大な水槽を持っていたに違いない。と思っていたのでした。でも、ちゃんと潜水夫の姿も映っていて(わたしが好きなへんてこヘルメットを被ってて、思わずガッツポーズをしてしまった)、大掛かりにもぐって撮影しているらしいものもあった。また、水槽もやはり使っていた。科学者でもあり芸術家でもある、というのはイイなぁ、魅力的だなぁと思う。
そしてたくさんの写真や映像をはさみながらのインタビューを見ていたら、また鳥肌のたつシーンに出くわしてしまったのでした。それは、ジャン・ヴィゴの病床の写真と映像でした!
一番好きな映画は?と聞かれたら多分わたしはマルクス兄弟の「我が輩はカモである」かジャン・ヴィゴの「新学期操行ゼロ」と答えるでしょう。ヴィゴは短命な映画監督でした。シュールレアリズムやアヴァンギャルドの時代にブニュエル(この人も好き)やエイゼンシュタイン、アルトーらと活動していた人です。その中にパンルヴェもいたということをこの映像で初めて知りました。もしかしたら何年か前に見た映画「ヴィゴ」の中でも出てきていたのかもしれないですね。その時には知らなかった。
で、インタビューによると、仲の良い友達のようで、病床で横たわるヴィゴの写真を撮ったりしている。映像でもヴィゴはカメラ目線で優しく微笑んでいて、心の通じ合った関係だったと想像できるのだ。映像は正直だ。多分死の直後の写真だろう、と思われるものもあった。あの30年ころの実験的な映像が、パンルヴェの中にもあり、それが科学ドキュメンタリー、ただそれだけにとどまらないものとしているのだ。
ポール・ヴァレリーも突然映像が出てきたので驚いた。この人の『テスト氏』は大学の頃に読んで愛読本となった。こんな(面倒くさい)紳士になりたいもんだ(女なのに・・・)と思ったものだ。
最近は「ハイブリッド」という言葉が流行だ。ヴァレリーはもしかしたら精神と言葉のハイブリッドと言ってもよいのではないか?・・・とゆう使い方はあたっているだろうか。(ちょっと使ってみたかったんで)興味があるのは精神であり、言葉ではないが、言葉によって精神が語られるその経緯を分析することのおもしろさに浸っているかのようだった(と、うろ覚えながら思ってみた)。パンルヴェのDVDに突然現れたヴァレリーの意味は(英語字幕で理解できなかったので想像だけしている)、勿論ヴァレリーに影響を受けたとか友人だったとか、ということだろうと思う。
科学と芸術、または科学と精神のハイブリッドが彼のフィルムには見られる。ヴァレリーがやったように、そこにはエキセントリックなものはなく、あると感じるとすれば、それは、説明しようとすることに終始していることによるパッション、「情熱」によるもののみだろう、と思う。クールな情熱だ。
なによりも、この「情熱」に胸打たれるのだ。何事もそうだけどね。
では、またあした
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