●もうひとつの『英国フード記 A to Z』●


みなさん、こんにちは。
このページでは『英国フード記 A to Z』に載せた版画について書いていきます。
Aから順番に版画の原画も載せますのでお楽しみに。



Vol.1: 表紙について■
Update-14/mar


エントリーNo.1
ヴィクトリア女王

まずは、表紙の登場人物をご紹介しましょう。

著者の石井理恵子さんのリクエストで、表紙は円卓を囲んでお茶を飲んでいるところにしました。
英国的な人物・・・これは人それぞれ想いは違うと思いますねぇ。わたしにとっての英国的事柄、これを紙にメモしていくと、ロック、アリス、貴族、紳士、狩り、サッカー、マザーグース、ミステリー、ホームズ、クリスティ、薬、お茶、インド人、アーサー王、馬、犬、ヴァイキング、処刑、シェイクスピア、雨、憂鬱、シニカル・・・・こんな具合になっていったわけね。この作業はとてもおもしろかった。

●No.1ヴィクトリア女王『お茶しましょう
まずは女王。これはヴィクトリア女王にしようかエリザベス1世にしようか悩みましたが本文の方の『Q』にエリザベス1世を描いたので、こちらではヴィクトリア女王(在位1837〜1901)。この方が断然シックリする理由がありますですよ。それは、お茶を飲むという習慣がヴィクトリア女王の時代に確立されたからです。ここで歴史をひも解くのも楽しいですが、それはまた今度・・・と言いながらちょっとだけ。
産業革命で中産階級が台頭してくると、金持ちになった優雅なご夫人方は「有閑」であることを美徳としました。何故かというと、使用人を雇う。沢山雇っている。「わたくしったら暇ですわぁ〜、お茶でもしませんことぉ〜」なんちて。そんなことを言えるのはお金があって使用人がたくさんいることを意味しているからよね。これを誇示するためにお茶会する。
社交の華が開きます。東インド会社からもたらされた紅茶はとても高価で、その頃は鍵のついた箱に入れられていました。その紅茶のBOXだけの専門職なんてのもあったっつーから、ほんと、暇ねぇ。細分化してお金持ちを誇ったのでしょう。このような奥方たちは奉仕も美徳としました。最近も映画になった「オリバー・ツィスト」はその時代の話ですね。貧富の差はドンドン広がっていきます。中産階級の台頭で田舎から働き手がたくさんやってきます。ロンドンはいきなり工場だらけ。スモッグ、ねずみ・・・・切り裂きジャックの現れた霧のロンドンはこの産業革命によって天候が変わったからなんですよねえ。
今年の富士山には雪がありません。これも温暖化のせいですね。Oh NO!
ちなみに女王は喪服姿です。Update-21/Jan

エントリーNo.2
バグパイパー

●No.2 バグパイパー『タータンチェックで
音楽もチイッとばかしやっているもんですから、楽器も入れたいと思うのは当然のこと。
これも、何を描くか考えるのはとても楽しかったです。
イギリスの音楽・・・・みなさんは何を思い浮かべますか?
ある人はクラシックと思うかもしれないし、ある人はケルト音楽を思うかもしれないし、絶対ロック!プログレかカンタベリーかグラムロックか、やっぱりビートルズなのか。はたまたミュージカルか、または古楽か。
自分がエレキギターを弾くのでどんなものであれ絶対これは描くとして、最終的にあとは見た目で考えることに決定。となるとやはりバグパイプしか考えられなかったのでした。これだとタータンチェックを描くことができますものね。
元々の起源は中近東の方ではないかと思いますし、同じような作りのものは世界各国で残っているので英国的とは言い切れませんが、絵に描いたようなタイプはまさに英国・・・スコットランド色が出ますよね。

今回の本では、わたしは行くことはできませんでしたが、著者の石井理恵子さんはスコットランドまで足を伸ばしていましたし、26の項目の中スコットランドの食べ物はどれも奇妙なものとしては出色極まりないのではないか?と思うので、スコットランドに敬意の念を込めさせて頂きました次第。

たとえば『H』の「ハギス」。これは以前から形が変なので気になっていたものでした。でも、東京でも食べることができますね。ブリティッシュパブでわたしも食べました。それにかけるモルトウィスキーが美味しい!香辛料たっぷりの内蔵肉と合う。しかし・・・ベジタリアン・ハギスってのはどうも・・・
日本でどうしても味わうことができないのは『I』の「アイロン・ブルー」ね。知ってますか?わたしはまったく知りませんでした。スコットランドの方の飲料水です。とにかく石井さんが「飲んで見てくださいよぉ〜」と嬉しそうに言うので、ウェールズの旅の途中飲んでみたのですが、飲みきるまでに1日半かかりました。う〜む、カオスな味。このあたりはわたしには説明しがたいので本読んでね。Update-21/Jan

エントリーNo.3
裁判官or弁護士

●No.3 裁判官or弁護士『公明正大なカツラ

『ヅラ』
・・・鬘。もちろん、頭髪が寂し気な人にとっては笑い事ではない。薬や放射線療法の副作用で寂しくなる人もいるし、笑っては申し訳ないのだけど、やっぱりおかしい。毛糸で作ったものをのせている人を見たことがある。あれは本気だったのかふざけてるのかわからなくて回りの人が気をつかっっていた。ハゲててもいいではないか!とわたしは思うけれど、無責任には言えない。『ヅラ』のCMを見ると、とても進化しているように見受けるけど、たいていわかっちゃう・・・・わかるとみんな誇らし気だ。世の中みんなヅラジャッジマン。

それはさておき、伝統と格式、それは得てしてコメディとなる。
『ヅラ』はコメディのネタの王道だけど、ただ寂しい頭髪を隠すからおかしいというわけでもなく、公明正大に被っていてさえ『ヅラ』はおかしい、と思えるのはこの表紙の絵のようなイギリスの裁判官や弁護士が被っている、そのスタイル。モンティ・パイソンのネタとしか思えない。『ワンダとダイヤとやさしい奴ら』で弁護士役のジョン・クリース(脚本も書いていた)が被っていたのは良く似合っていてやっぱりおかしかった。威厳のために被るのだろうけど、威厳あり気な人の威厳を失墜させるための小道具としか思えない。どうもふざけてるとしか思えない。
伝統を単に受け継いでいるだけだから、『隠す』という意味では使ってないところがまたおかしいんだよ、きっと。兎に角権威の象徴、威厳の象徴としてチョコンと乗ってさえいれば良いわけで、女の人も被ってる。天然パーマのアフロの裁判官がいたとして、その上にこうゆうののってるところを想像するともぅ我慢できない。いや、勿論嫌だと言ってるわけではないですよ、わたしは好きですよ。こうゆうの。

昔はあまり髪の毛を洗わなかったから、正式なところに出る際に匂いが気にならないようにするために鬘を被って出る、というのを何かで読んだことがある。調べるともっと出てくるんだけど、この説が一番好きです。ニュートンとかバッハの鬘は見事だよね。『アマデウス』ではモーツアルトがカラフルな鬘を選んでいるシーンがあって、これはファッションの一部として使ってたのでしょうね。貴族、金持ちの嗜みと申せましょう。

英国の王室の方々が必ず帽子を召されるのは、もしかしてこの鬘文化の変型なのかなぁ?競馬場でもリッチな方々は必ず帽子着用でしょ。アレが全部『ヅラ』だったらおもしろいだろうなぁ。マリー・アントワネットが被っていたようなてっぺんに船がくっついているようなオブジェ風ヅラが被ってみたいきょうこの頃です。Update-22/Jan


エントリーNo.4
ピート・タウンゼント

●No.4 THE WHO『ピートなんですけど

ちょっと微妙に似てないんですよ。
つっこまれるかなーと思ったら数名にやはり指摘されました。それは、「この人はスタイル・カウンシルの人?」というもので、そうなんですよねー、ポール・ウェラーに似ちゃったんですよー。
しかも、衣装がモッズファッションでしょ。間違ってしまいますね。

銅版画というのは一度腐食してしまったら最後、やり直しができません。多少線を削るとか薄くするとかはできますが、顔だけ描き直すなんてことは無理。だから、版画で仕事をさせていただく時は、必ずギリギリまで納得のできるまでラフを描きつづけます。しかし、顔はむずかしい。ラフの段階では明らかにブリティッシュ・ロックの雄THE WHOのギタリスト、ピート・タウンゼントだったのです!
が、顔の造作というのは1mmでも狂うと違う人になってしまう・・・。なわけでちょっと違う風になってしまったのでした。やり直す時間はまったく無し!

ポール・ウェラーは今でもパキパキのモッズスタイルで細身のペンシルストライプのスーツが良くお似合いですね。でも、この絵のようなSGというエレキギターは持っていないと思います。そうゆう印象ではないですね。
では、ピート・タウンゼントはどうか?わたしがこの本の表紙に彼を描いたのは、本の中でも印象的な「EEL PIE ISLAND」のところで彼が登場するからです。くわしくは本で。
彼のレーベル名はその名も「eel pie lebel」。ハッキリはしてませんが、お父さんがうなぎ好きだったとか。ソロアルバムもお父さんに捧げてますね。お父さんてどんな人だったのでしょう。

さて、このEel Pie Islandにあったホテルでのギグは60年代の中ごろだと思います。そうなるとファッションはスーツでバッチリのモッズが良いと思いました。実はグッド・タイミングなことに、わたしは先日ブロードウェイミュージカル「TOMMY」を見にいったばかり。勿論元はTHE WHOのロックオペラです。ケン・ラッセル監督で映画化もしましたし、わたしもDVD買って堪能しておりました。舞台、これがイマイチの出来で帰宅してもなんだかモヤモヤ。それで、ライヴとインタビュー構成のDVDを口直しに見ることにしました。その中でピートはこう言っています。「毎週毎週スーツをオーダーしに行ってた。まったく馬鹿みたいな話だと思って、ある時から作業着にした。靴もブランドにこだわるのを一切やめた」。モッズは「さらば青春の光」を見るとわかりやすいのですが、格好が小奇麗で、お金は大半服と髪型キープに使っていました。THE WHOはそのモッズの代表のようになっていたのですが、音楽をするものはいつも先に行ってしまうのです。それが普通なんです。取り残されたものは罵倒するか、ついていくか、捨てるか、それしかない。恨んでも仕方がない。

スーツの頃のピートはリッケンバッカーというメーカーのギターも持っていることが多いんです。これはビートルズもそうだったからで、ビートルズはリッケンバッカー社から新しいモデルが出るたびに送られて来たエレキを使いまくっていました。大変な宣伝効果。今でもビートルズが好きな人はリッケンバッカー買います。高いですよ。わたしはコピーモデル持ってましたけど。ベースもありましたが、重かったです。売りました。

ピートは作業着(ジャンプスーツあるいはつなぎとも言うですけどね)になる頃からSGになってます。ミュージカル「TOMMY」では白いSGを主人公がかき鳴らす演技(音にはよくあってました)してましたが、そのあとSG(白じゃない)を使うことが多かったと思います。わたしにはピート・タウンゼントはSGなんですよ。だから、表紙の絵には少し間違いがあるんです。時代考証的にモッズファッションのピートにはSGじゃないんですよ。でも、あえてわたしはSGを持たせました。だって、わたしにとっては彼はSGだから。

これがこの絵で何か違和感を感じた人への答えであり真相です。
愛があってのことですので、どうぞ、お見逃しくださいませ。
Update-15/Mar

悪いけどつづくのよ





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2006 (c) Satomi Matsumoto