"70 minutes driver: 16
AIR GUITARS" 曲目説明
|
●Part
1●●●
1. CARS IN THE GRASS: Stuart Moxham (1995)
イギリス・ウェールズ地方の中心都市、カーディフで活動していたヤング・マーブル ・ジャイアンツのリーダーとして1980年にレコードデビューしたスチュワート・モクスハム
(vocal, guitar, organ) が、約10年の沈黙の後にソロとして活動を再開してから3枚目のアルバムにあたる1995年作品
"CARS IN THE GRASS" 収録のタイトル曲です。簡素な演奏は、YMGの頃と変わりませんが、無愛想なリズムは、ゆったりとした
揺れに変わりました。この後、出版社提出用に録音されたデモ録音集が発売されていますが、それ以降、しばらく音沙汰がありません。
2. AVANT GARDE M.O.R.: Stereolab (1993)
元マッカーシーのティム・ゲインとフランス人ヴォーカリストのレティシアを中心に 1990年に結成され、現在もコンスタントに作品を発表し続けているイギリスのバン
ド、ステレオラブの1993年作品 "THE GROOP PLAYED 'SPACE AGE BACHELOR PAD MUSIC'"
の冒頭に収められている曲です。変則的な形のリリースが多いバンドですが、これはフォークロック的なA面と、ドイツのバンド、ノイ!を思わせるB面から成
るミニアルバム。タイトルの「宇宙時代の独身者部屋音楽」は、1950年代末から1960 年代初めのハイファイ装置向けに作られた凝った音響効果のイージーリスニング音楽
のことで、音楽収集愛好家のバイロン・ワーナー氏が考案した言葉とのこと(『モン ド・ミュージック2』1996年刊より)。
3. TINY SMILES: Lush (1992)
初のオリジナルアルバム "SPOOKY" (1992年)の収録曲ですが、その前に、新曲や未
発表曲を収めたCDと分厚いブックレットをセットにした季刊誌 "VOLUME" 2号(1991 年秋) で初めて聞きました。ラッシュは、1989年にデビューしたイギリスの男女混成バンド。コクトー・トゥインズのロビン・ガスリーがプロデュースを手がけ、霞が
かかったようなギターサウンドと儚げなヴォーカルハーモニーが印象的でしたが、素人っぽい無手勝流のメロディがいちばんの魅力だと思います。さらに2枚のアルバムを発表したのち、1996年にメンバーの一人が自殺したことをきっかけに、解散してしまいました。2001年に入ってから、ベストアルバムが発売されています("Tiny
Smiles" は残念ながら選ばれていません)。
4. MIGHT AS WELL BE DUMBO: The High Llamas
(1994)
この曲も、季刊誌 "VOLUME" 10号(1994年夏)のCDで発表されたもので、このバンド
を好きになるきっかけになった曲です。オリジナルアルバムには収録されませんでしたが、のちに、"GIDEON GAYE" の日本盤CDや
"HAWAII" の米国盤CDに、ボーナストラックとして収録されました。ハイ・ラマズは、ポストパンク期のフォークロックバ ンド、マイクロディズニーのメンバーだったショーン・オヘイガンが1991年に結成し
たイギリスのバンドです。この曲を聞いて、当時出たばかりのセカンドアルバム "GIDEON GAYE" を買いに走りました。"VOLUME"
のブックレットに掲載された「ビー チボーイズ、ジム・ウェッブ、ジョン・ケイル、ロバート・ワイアットが好きだ」と いう発言に納得するだけでなく、それだけではないものを感じました。この後、電子音楽やミニマル音楽などの要素を取り込みながら、前述の
"HAWAII" など4枚のアルバムを発表し、現在も活動中です。
5. AIR GUITAR: Ben & Jason (1999)
ベン・パーカー (vocal, guitar) とジェイソン・ヘイズリー (keyboards)
のデュオ。1999年4月にミニアルバム "HELLO" でデビューし、半年間で、アルバム "EMOTICONS" と数枚のシングルを怒涛のごとく発表しました。一年以上、リリースが
途絶えていますが、解散はしていないようです。この曲は、現在のところ唯一のアルバム "EMOTICONS" の収録曲で、シングル盤としても発売されました。去年の暮れに、2001年春に待望の新作発売との告知がありました。そのときは春遠からじと思っていましたが、いつの間にか、はるか遠くに去っていってしまいました。まだ出ていません。
6. GRACE CATHEDRAL PARK: Red House Painters
(1993)
1992年に、イギリスのレコード会社に送ったデモテープがそのまま発売されて、デ ビューしたサンフランシスコのバンドです。オリジナル曲の作詞・作曲をてがけ、
ヴォーカルとギターを担当するマーク・コズレクのほぼワンマンバンド。この曲は、 正式な録音としては最初のアルバム "RED HOUSE
PAINTERS" の1曲目に収められています。当初、この「デビュー」アルバムは、2枚組になる予定でしたが、結局、分けて発売されました。どちらも
"RED HOUSE PAINTERS" と題されていますが、カバー写真から、最初に出たものは "ROLLERCOASTER"、半年後に出たものは
"BRIDGE" と呼ばれています。あまり幸福でなかった少年時代を反芻するようなトラウマを感じさせる歌ですが、追体験を強いることはありません。聴いていると、いっしょに心が軽くな
るような気がします。移籍したメジャーレーベルと契約問題がこじれて、お蔵入りに なっていた6枚目のアルバム "OLD RAMON"
がようやく発売されたところです。
7. THIS CAR CLIMBED Mt. WASHINGTON: Damon
& Naomi (1992)
ディーモン(vocal, guitar, drums)とナオミ(vocal, bass)は、1991年に解散し
たギャラクシー500の元メンバー。解散後、ピエール・エトワール名義でEPを一枚発表したのち、デビューアルバム "MORE SAD
HITS" を発表しました。マン・レイの写真を使ったインパクトのある表ジャケットを手に取って、裏を返してみれ ば、ロバート・ワイアットへの傾倒がうかがえる曲名が並んでいます。ギャラクシー500はそれほど好きではなかったのですが、このデビューアルバムには参りました。
この曲は、ピエール・エトワール名義のEPで発表された曲ですが、選んだのはデ ビューアルバム収録のリメイクバージョン。現在まで、"MORE
SAD HITS" を含めて、4枚のアルバムを発表しています。最新作は、日本のバンド、ゴーストとの共作で す。
8. HERE SHE COMES: Slowdive (1993)
レイチェル・ゴスウェルとニール・ハルスティードの二人を中心に、1990年にイギリ スで結成されたバンドで、終始うつむいて演奏する「シューゲイザー」バンドのひとつとして紹介されていました。選んだ曲は、1993年のセカンドアルバム
"SOUVLAKI" に入っていたもので、ブライアン・イーノの "Becalmed" を連想させるところがあります。そのイーノが、アルバムで音色処理などチョイ役で参加しています。サードア
ルバムを発表したのち、1995年解散。レイチェルとニールに新しいメンバーを加えて、Mojave 3(読み方がわかりません・・・)として再出発しています。
●Part 2●●●
9. NOTHING MORE'S GONNA GET IN MY WAY:
Supergrass (1997)
オムニバスアルバムで初めて聞くことが少なくないのですが、名前だけは知っていた スーパーグラスは、雑誌
"VOX" の付録CDに収録されていたこの曲がきっかけ。小賢 しさを感じさせない、独特のポップセンスが気に入りました。EMIの100周年を1枚の
CDで振り返るという大胆すぎる企画に、よりにもよってこの曲を選んだ編集者に感謝 しています。もとは、1997年4月に、セカンドアルバム
"IN IT FOR THE MONEY" と同時発売されたシングル "RICHARD III" のB面に収められていたもの。デビューは1994
年。現在までに、3枚のアルバムを発表しています。
10. ROCK IN THE RAIN:
Money Mark (1998)
マニー・マークこと、マーク・ラモス・ニシタは、ビースティ・ボーイズでオルガン を弾きまくる男として認知されていたせいか、レコード店では、ヒップホップやクラブサウンドの棚にまぎれてしまっています。初めて知ったのは、ブラジリアン・ポップスのオムニバス
"RED HOT + RIO"(1996年)での涼しげなボサノヴァでしたが、ソロアルバムで聞けるのは試したいことはなんでもやってみせるやんちゃな音楽でし
た。この曲は、1998年に発売されたセカンドアルバム "PUSH THE BUTTON" に収めら れています。日本に来たときに見に行きましたが、この曲ではキーボードではなく、
自らギターを弾いていました。来日記念盤として日本でのみ発売されたライヴ盤をのぞいて、その後、新作の発表は途絶えています。
11. MARBLE LIONS:
Saint Etienne (1994)
60年代ガールポップをヒップホップなどのお手軽サウンドに結び付けた中古レコード マニア二人組+女性ヴォーカリストのトリオ。この曲は、1994年のサードアルバム
"TIGER BAY" 収録曲で、関西のよみうりテレビの深夜映画枠「CINEMA大好き」で、月間テーマ曲のように使われているのを耳にして気に入りました。調べたらセイント・
エティエンヌだというので、少し驚いたことを白状しておきます。コンセプト先行で、曲が弱いユニットだとばかり思っていたからです。ヴォーカリスト独立の動きも
あったようですが、現在は元のさやに収まって、活動中です。
12. SOMETHING STRANGE
HAPPENS: Allen Clapp & His Orchestra
(1994)
現在オレンジ・ピールズを率いて活動しているアレン・クラップが、音楽活動を始め たのは、1990年頃だそうです。夫人や友人とともに、4chのマルチトラックレコー
ダーを使って、自宅の部屋やガレージで録音された作品を集めたのが、“アレン・クラップと彼の楽団”名義のアルバム "ONE HUNDRED
PERCENT CHANCE OF RAIN" です。 古き良きポップスを思わせる爽やかな曲調のこの曲は、オレンジ・ピールズとしての
デビューアルバム "SQUARE"(1997年)でも再演されていますが、自宅録音ならでは の粒子の粗い音や演奏のほうが、どことなく落ち着かない歌の表情にぴったりのよう
な気がします。固定したメンバーによるバンドとして再出発したオレンジ・ピールズ は、2000年にセカンドアルバムを発表。現在も活動中です。
13. CENTER OF GRAVITY:
Yo La Tengo (1997)
1984年にアメリカ、ニュージャージー州ホーボーケンで結成されたバンドの1997年作
品 "I CAN HEAR THE HEART BEATING AS ONE" の収録曲。わたしにとっては、ぼやっとしていた彼らの姿に、初めてぴたっと焦点を合わせることができたアルバムです。
結成前にジョナサン・リッチマンの曲名からとったアストラル・プレインズというバ ンドをやっていたというアイラ・カプラン (guitar,
vocal) とジョージア・ハブ レー (drums, guitar) に、幾度かのメンバーチェンジを経て、1992年から参加した
ジェームズ・マクニュー (bass, vocal) のトリオ。ジャケット写真の、絞りをいっ ぱいにして撮影された夜の町の情景が、暗闇の中から手探りで何かをつかみとるような、ぼやっとした歌にぴったりです。現在も活動中です。
14. I DON'T KNOW:
Epic Soundtracks (1992)
70年代の終り頃にベッドルーム・パンクバンドのスウェル・マップスでドラムとピアノを担当していたエピック・サウンドトラックス(本名、ケヴィン・ゴドフリィ)
が、スウェル・マップス解散から10年後の1992年に発表した初めてのソロアルバム "RISE ABOVE" の収録曲。ローラ・ニーロやブライアン・ウィルソンの歌を思わせる
繊細な作風の歌は、スウェル・マップスの音とはまったくちがっていましたが、何故か違和感なく、十数年ぶりかで会った友人のように「すぐに彼とわかった」ような気
がしました。その後、2枚のアルバムを発表。4作目のアルバムを準備していた1997年 11月5日に、37歳で亡くなりました。残念です。オリジナルアルバムの3枚の他に、デ
モやライヴを集めたレアトラック集が2種類出ています。
15. I HEARD YOU LOOKING: Teenage Fanclub
(1995)
1990年にデビューしたスコットランドのバンド、ティーンエイジ・ファンクラブの5 枚目のアルバム
"GRAND PRIX" に関連して6種類も発売されたシングルのうちの1枚、 "Neil Jung" の収録曲です。ヨ・ラ・テンゴの
"PAINFUL"(1993年) の最後に収められていた曲のカバーですが、ライヴでアンコールの最後に演奏されるなど、「ギターを鳴らしていれば幸せ!」な彼らにとっても、楽しんで演奏できる曲なのではないかと思います。この頃、シングルを2種類ずつセットで出すのが流行しており、悩
まされたものですが、こうした演奏が聞けることだけが救いでした。どんどんカドがとれていっているような気がしますが、安定した佳作を発表しつづけています。
16. HANG ON: Teenage
Fanclub (1993)
ティーンエイジ・ファンクラブの4枚目のアルバム "THIRTEEN" の冒頭を飾る曲です
が、これは、ドイツで出たシングル "HANG ON" に収められていたアコースティック バージョンです。ラジオに出演したときの録音のようです。ギターをしっかり弾いとくれ、という話とまったく矛盾していますが、こうして聞くと、彼らが作る曲はいいな、とあらためて思います。
きじま こう(モノノフォン) 2001年6月 |
|